スタッフたちの生活を守るために、10年続けたビジネスモデルを方向転換。「地域に長く愛される店」という思いでを事業を育てた。上場した今でも方針は変わらない。
餃子居酒屋のパイオニアとして、国内130店舗以上(2023年8月時点)のダンダダンを展開する株式会社NATTY SWANKY。井石裕二氏が事業を手掛け、現在に至る中で培った経営論を聞く。
スタートはダイニングBARとラーメン店
─起業前の井石さんは会社員だったそうですが、どのような流れで起業に至ったのでしょうか
私がサラリーマンだった頃、頻繁に通っていたラーメン店がありました。そこで働く田中(現、副社長 田中竜也氏)との出会いがきっかけですね。次第に話をするようになり、彼は将来的に独立を考えていると。私も学生の頃から起業したいと思っていたので、一緒にやろうということになりました。
─どのような事業を始めたのでしょうか
田中が働いていたラーメン店の味をベースに、改めて独自の商品開発をしました。私はまだ会社員だったので、退職までの半年ほど彼を手伝う形。その後は私が2軒のバーを開業し、田中はラーメン店を2軒という分業で経営してました。
ただ、次第に経営面の不安を持つようになって。赤字を出さないとはいえ、本社経費を生むような経営ができませんでした。初期メンバーには結婚や出産する人も出てきたし、給与面でもサポートしてあげたい。このままだと将来が見えないなと。田中とも話し合った末、スケールできる事業として餃子居酒屋に業態変更しました。
あるようで無かった「餃子とビール」を楽しむ店
─餃子居酒屋の業態は、ダンダダンがパイオニアとして多くの認知を獲得しています。井石さんが手がける餃子は他とどこが違うのでしょうか
実は、餃子ってどこでもそれなりに美味しいんですよ。だからこそ、逆に噂を呼ぶほど美味しい餃子も少ない。餃子を突き詰めると、お客様にわかるほどの差別化が難しいメニューでもあるんです。だからこそ、明らかに違う餃子として誰にでもわかる特徴を作ろうと思いました。栄養価を残した全粒粉や、挽き肉の食感を残した餡など、徹底的に細部までこだわってます。そして、今ではダンダダンの代名詞でもある「餃子居酒屋」が強みですね。
─すでに餃子とビールをメニューに入れている店は他にもあったと思うのですが
メニュー全体としてならありましたね。ただ、ダンダダンを立ち上げた2011年は、餃子とビールをメインに楽しむ場所はなかった。ラーメン店や中華屋ではサイドメニューなので、若い人や女性たちに敷居が高いんです。メインを頼まずに、餃子とビールだけで帰るなんて気が引けるじゃないですか。だからと言って、ラーメンを食べてからでは満腹で食べきれない。そこで「餃子×ビール」という最高の組み合わせを楽しめる店を作りました。
技術は現場で学べる。まずは気配りと心遣い
─2011年に1号店がスタートし、2019年にはIPOも果たしています。創業から現在に至るまで、井石さんにとって苦労や失敗はありましたか
苦労は気にならない性格ですが、あえて言うなら初期は人集めに苦労しました。特に、1店舗目は内装や設備で費用の大半が消えてしまい、求人にお金を掛けられないわけです。アルバイトから社員になってもらったり、知り合いから紹介してもらったりしましたが、それでも足りなかったですね。閉店後に各々が1,000個の餃子を握り、朝になるとシャワーだけ浴びに戻る毎日でした(笑)。
─現在は十分なスタッフがいらっしゃると思いますが、井石さんは人材の採用や育成についてはどのように考えていますか
コミュニケーションが好きな人が重要ですね。そこで、弊社では店舗への配属前に必ずコミュニケーションを学んでもらいます。調理のスキルは働きながらでも学べるし、期間に比例して向上しますから。一方、コミュ力は気配りや心遣いでもあるので、経験を積めば身につくとはならない。例えば、お客様に「すみません」と呼ばれた場合、きちんと対応すれば一応は正解です。ただ、気配りができるスタッフだと、“呼ばれる前”に自ら声掛けしますから。これは、コミュ力や人に興味を持つ土台があるからなんです。
地域で長く愛される店作りを目指す
─では、将来的に目指したい会社像や組織など、現在はどのようなビジョンをお持ちですか
まず、すべての店を各々の地域で愛される店にしたいですね。売り上げも必要ですが、地域に根付き、長く運営し続けるビジネスが理想。例えば、店が頻繁に変わる場所ってどこにでもありますよね。企業によっては目ぼしいところに出店を仕掛け、スクラップ&ビルドで効率よくという戦略も理解はできます。ただ、路面店だと街の景色にもなるので、私は良い現象だと思いません。1店舗ずつていねいに育てながら、同時に会社も成長できる。これが私にとって最高のビジョンです。
─ダイニングBARとラーメン屋から始まった共同創業。10年後、スケールできる事業として「餃子居酒屋」に挑戦。2019年にはIPOを達成し、国内400店舗と海外進出を目指す井石氏。「1号店の時と同じように、すべての店を楽しい空間に育てます」と語る笑顔が印象的だった。
会社名 | 株式会社 NATTY SWANKYホールディングス |
住所 | 東京都新宿区西新宿1-19-8 新東京ビル7階 |
代表 | 井石 裕二 |
設立 | 2001年8月1日 |
HP | https://nattyswanky.com/ |