自分の能力とスキルを分析し、技術で勝負できる料理の世界を選んだ。資金が少ない中、野宿をしてでも全国の店を回って料理を研究。これからも上を見続け、すべての夢を実現していく。
料理人としての修行を経て、独学でイタリア料理を学ぶ。北海道江別市に「リストランテ薫」をオープンし、ミシュランガイド北海道にて1つ星を獲得。2018年、「長谷川稔(現 薫 HIROO)」を東京都広尾にオープン。現在は「長谷川稔Lab」のプロデューサーとしても活動中。20歳だった青年が、料理人として様々な経験から今にたどり着いた。改めて、現在の長谷川氏が考える展望をお聞きした。
自分の能力で勝てる世界が料理人だった
─長谷川さんは、なぜシェフという道を選んだのでしょうか
トップを取れると思った仕事が料理人だったんです。まだ若かった当時は、漠然と「お金が欲しい」「地位を手に入れたい」という思いはありましたよ。ただ、まったく勉強してこなかったので、いわゆるエリートコースは歩めないなと。そんな20歳の自分が勝てるのは、技術で勝負する料理人か美容師だと思ったんです。ただ、美容師は施術だけでなく、接客のスキルも必要だから難易度が高い。一方、料理人なら接客は人を雇えばいいし、工夫次第でどうにかなるだろうという理由で決めました。
─では、そもそも料理が好きなわけではなかったということですか
そうですね。自分が持ち得るスキルや能力で決めました。たとえやりたい仕事だとしても、叶わないことに時間を投下して無駄に終わりたくない。そういう意味では自分を過信しないし、逆に謙遜も卑下もしません。ありのままの自分を見つめ、勝てると判断した領域が料理の世界でした。
研究のためなら野宿をしてでも高級店で食事
─修行期間を経て、晴れて独立した時のことをお聞かせください
共同経営でレストランを始めましたが、途中から意見が合わずに抜けました(笑)。30歳で職を失ってしまい、どうにかしないとまずいよなと。そんなある日、たまたま高級な寿司屋へ行ったところ、お客様が明らかな富裕層ばかりだった。トップを取るためにはこれだと思ったんです。一流のお客様を相手にするビジネスモデル。そのためには、まず自分が料理人として一流であることが大前提です。独学で徹底的に料理を極め、一流のレストランに方向転換しました。
「カジュアルなレストランで起業しましたが、トップを目指すために高級店へとピボットしたんです」と話す長谷川氏。
─改めてスタートする初期費用や、当面の運転資金はどうされたのでしょうか
100%自己資金です。毎月のように赤字の中、一流を目指してがんばってましたね。全国のお店を食べ歩いたり、興味のある食材を仕入れたり、資金の大半を研究につぎ込んで。六本木の三つ星レストランで食事したあと、近くの公園で野宿したこともありました(笑)。ホテルにお金を割くような余裕なんてなかったですね。
─長谷川さんの料理に対する熱量がすごいですね
3年間は赤字でお金がなかったですから。飛行機も羽田からは高いので、面倒でも成田を使ってました。レンタカーで広島へ行った時は、車中泊しながら飲食店を巡ったり。ホテルを利用したのは、他の料理人と同行したのが最初だったと思います。研究に関係ない出費は1円でも抑えてましたね。
売り上げを作り出すのは経営者ではない
─ビジネスをする上で、長谷川さんが大切にしていることはなんでしょう
やはり人じゃないですかね。そもそも売り上げを作るのは、社長ではなく現場のスタッフなんですよ。プロダクトのゼロイチは私でも、そこから先はスタッフの力が大きいんです。東京で勝負する夢だって、スタッフがいるおかげで叶ったわけですから。これは私に限らず、すべての会社や店にも同じことが言えます。人は会社の道具ではありません。
─理想的な経営者像だと思いますが、スタッフの士気や向上心の妨げにはならないのでしょうか
売り上げ的には足を引っ張る要素になるかもしれないですよね。それでも私はスタッフを人として大切にしたい。売るためにスタッフを激づめする他社の経営者をみて、あれは人が育つ環境じゃないと思いました。まずは、お客様より先にスタッフを大切にしないと。売り上げはその後だと思います。
引き続き会社をサポートし、自らも事業をスタート
─20歳で料理人の道を選び、現在の場所までたどり着きました。改めて、今の長谷川さんが持つビジョンがあればお願いします
これまで通り、会社が仕掛ける事業をサポートしつつ、若い世代を育てていきます。私がこれまでに培ったスキルはもちろん、人脈や取引先のネットワークもでも貢献しようと思っています。今は見て覚えろという時代じゃないし、ゼロから仕入れ先を探すなんて時間の無駄ですから。
「引き続き若い世代を育てながら、私自身も新しいビジネスに挑戦しますよ。いずれ南の国でのんびりするために(笑)」
─長谷川さんご自身もビジネスを始めるとお聞きしました
ペットフードをやろうと思ってます。すでに構想はあったのですが、これまでは力不足で実現できなかったんです。私は商品を生む、いわゆるゼロイチは得意なんですが、1を10へ100へとスケールするのは上手じゃない。以前はお金もなかったので、得意な人を集められなかったんです。今回は、人脈や売り先などの環境も整ったので、しっかりと進めていきます。
─自分がトップを取れる仕事として選んだ料理人の道。自己資金が少ない中、「料理を研究するために、野宿をしてでも高級店で食事をした」と長谷川氏は笑う。本気でトップを目指し、現在は次世代の育成にも力を注いでいる。インタビュー中の熱量からも、氏の想いとエネルギーに圧倒された。
会社名 | 株式会社KAORU |
住所 | 東京都港区南麻布4‐5‐66 |
代表 | 長谷川稔 |
設立 | 2017年09月 |